私の大好きな2冊

~こどもの頃に読んだ『まぼろしの白馬』と『床下の小人たち』~

英国へは縁あってよく行きます。縁があるのは事実だけれど、やはり惹かれるものがあるから行くことになります。
なんでそもそも惹かれたのかと考えてみると、こどもの頃に読んだ「不思議なお話し」が一役かってくれていることに気付きます。「不思議なお話し」が磁石となって、東洋の端っこの島国で生まれ育った私を、西洋の端っこの島国、英国に、強い磁力で引っ張っていきます。
その磁力となったお話の題名は「まぼろしの白馬(エリザベス・グージ作)」です。

子供のころ誕生日やクリスマスというと、私と妹は母に近鉄デパートの書籍売り場に連れて行かれ、何か好きな本を一冊ずつ買ってもらうということになっており、なんで「まぼろしの白馬」を選んだのかは覚えていませんが、なんと良い本が私の手の中に入ってきてくれたことかと今は感謝しています。
「まぼろしの白馬」は小学校3~4年のころ夢中で読んで、大人になった今も心の中に生き続けています。当時は「読んだ」というより、本を開くたび「そちらの世界に行った」という表現が適切です。一角獣と月のお姫様が忘れられません。本の中に手書きの地図が入っていて、辺りの河や黒の森、お城の位置がわかりました。
ゼラニウムの花が印象的。庭の大きな植え込みが刈られて、おんどりや騎士の形をしていました。
ヘリオトロープ先生の顔の感じも覚えています。女の人は、あごの下でひもを結ぶ帽子を被っていました。Bonnetと呼ばれる帽子です。当時はこどもなので、作者が誰でどこの国の人かなんてどうでもよく、ストーリーが誰かの創作物だという概念すらもたず、どこかであった本当のお話しだと思っていましたが、後になって思えば、あれが私のイングランド初体験でした。
「まぼろしの白馬」のストーリーの中で、自分の国とは全然違う世界、イングランドのお屋敷や庭、河や森を自由に移動していたように思います。

知り合いのフランス人、Ericはカルフールの社員として日本にいたのですが、うんと前、高校生のときにも、弟と二人でツアーに入り日本に来たことがあります。家族旅行ではなくてなんで十代の兄弟が二人だけで?と聞くと、ドラゴンボールの国にどうしても行きたいと親に必死で頼んだということです。それで行かせる親もアホやなぁ?と笑ったんですが、人がその国にはまる理由は人それぞれで、特にこども期に受けた強烈なプラスのイマジネーションは強烈な磁力を引き起こすようです。Ericの「ドラゴンボール」と、私の「まぼろしの白馬」はそういった意味では同じ種類の磁力です。

まだあります。とても不思議なお話しが・・・
「床下の小人たち」「野に出た小人たち」(メアリー・ノートン作)
時間割に図書の時間というのがあって、一週間の時間割で最も嬉しい時間だったのですが、「床下の小人たち」「野に出た小人たち」はその図書の時間でみつけた本でした。自然採光が入る音のしない図書室での時間は、今思えば「至福の時」でした。

昨年、天王寺のアポロビルのエスカレータに乗っていて、アリエッティという名前が目に入りました。ジブリの映画の広告です。なんかその名前が妙に懐かしく、エスカレータをまた逆に乗り直して広告を見に行きました。アリエッティの横に「借り暮らしの」と書いてあったので、「あっ?あのアリエッティなの?」と、久しぶりに出会えた喜びと懐かしさが胸一杯こみあがりました。ジブリのアリエッティはものすごくチャーミングに描かれていましたが、私の知っているアリエッティはもっと不細工で似ても似つかん子でした。あまりにも懐かしく、アポロの喜久屋書店には別の買物で来たにもかかわらず、まっさきに「床下の・・・」を探しにかかりました。映画化しているおかげで「床下の・・・」は原題がThe Borrowersだということが本の帯ですぐにわかり、Puffin Classicsの The Borrowersをさっそく買いました。アリエッティとの40年ぶりの再会です。

お話しの冒頭は印象的です。
家でよく小さなもの、ボタンだとか、瓶のふただとか、糸巻きだとかが無くなることがある。絶対にここに置いたと自信があるのに無くなることがある。これはその家のどこかに隠れて住んでいる小さい人達がこっそり持っていって使っているから。
その頃は半分以上信じていました。無くなるってそういうことやったんや・・・と思いました。イギリスのお屋敷と違って、日本の恵まれない住環境にあっても、どこかに隠れ住む場所はあるかも?無いかも?
ずっと大人になっても、何かが無くなるたびにこの冒頭の部分を思い出します。すごい影響力です。よく物を失くす人には大変良い言い訳となります。小さい人達がそれを借りて暮らしているのだから失くしてもいいんですよ!

「床下の・・・」のメアリー・ノートンもイングランドの作家です。
「指輪物語」のトルーキンもイギリス人、「ナルニア国物語」のCSルイスもイギリス人、「不思議の国・鏡の国のアリス」のルイスキャロルもイギリス人。これはもう大変!英国と言っても私はどちらかというとスコットランド寄りですが、こうなるとイングランドの類まれなる想像力を絶賛しないわけにはいきません。

「床下の・・・」でも、こどもの頃の私は、本の中でイングランドを体験していたように思います。家の様子、庭の様子、お屋敷で雇われている使用人などなど、自分の周りでは見ることのないものの様子を眺めていました。
他にも良いものがたくさんあるに違いないけれど、とりわけ、エリザベス・グージとメアリー・ノートンは是非、こども期に読んでもらえたらいいなと思う本です。